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太もも二の腕脂肪吸引日記

水の森美容外科での太もも臀部含む及び二の腕の脂肪吸引の記録、備忘録、日記、短編小説、などなど。

星の昇る島 (1)

“あたしのせいね  

  彼女は笑い  

  見送りにも来なかった”

サクラは昼は喫茶店の、夜はバーに変わる店に居た。仕事が終わってハイボールを仰ぎながら、ボンヤリと店内のスペースで流れる歌を聴く。

昼も夜も生演奏の時間があるのだ。

今歌っているのはアザミだ。

“光る壁  

  並んだ墓標  

  透き通った街”

変わった歌詞だった。ピアノの音が三連符を連ねる。

“流れながら  

  止まらない  

  星の降る島へと”

最後の一息が余韻を残し、曲を終えた。


「あの歌はお初?」

「そうだよ」

長い黒髪がアザミの肩で揺れる。

「曲はジャズっぽい?けど、変わった歌詞だったね」

「ちょっとね」

エスプレッソをすすりながらカウンターの横でトントンと指を打つ。考え事をしている時の彼女の癖だ。本人は気づいてないかもしれないが。

「あのさ、日本海の、島根の北の方辺りに、ムー大陸みたいに本当と断絶した島があるんだって」

「ん??」

話が飛躍したので、私は持っていたジョッキを揺らしかけた。右手のチーズもつられて踊る。

「なんだなんだ」思わずジト目で見やってしまう。「一度行くと戻れないんだけど、そこは白い建物が並んだ街があって、光の粒で一杯で夢のようだと」「ほお」「それをモチーフに書いた曲なの」「そんなもんよくモチーフにしたわね」

「ネットで見た」「…胡散臭い…」「白い建物ってギリシャみたいな感じかな?」「光るなら札幌雪まつりみたいになるんじゃない?」


「帰れるなら行ってみたーい」アザミが赤い頰で言った。


行ってしまった。


しまった、と思った。

この所アザミの飲む薬の量が多くなったのを知っていた。「消えたーい」彼女の口癖だった。消えたい病だ。昔からのことで放っておくと言わなくなる、独り言だった。

『ハルへ。

   ちょっと行ってみます。心配しないでね』

書き置きがこたつの上にあった。


彼女の両親に伝え、警察に捜索願いを出し、ネットの検索履歴を片っ端から調べた。その島は、この1年ぐらいで現れた、都市伝説のようだった。

自称「なんとか帰って来た人」の説明では、行くにはなんと左腕を差し出さないといけないらしい。島の人間は生まれつき左手が無く、移植のために渡すのだそうだ。代わりに義手を付けられ、右手の甲に焼きで刻印を刻まれ、橋渡しの一族に船を貸してもらい自分で漕いで行かねばならないらしい。海流の関係で、一度島に近づくともう戻れないらしかった。

「アホか!!!!!」私はパソコンのマウスを叩きつけた。

そんな話あってたまるか。

だが、あの日店で聴いたアザミの歌に、そんな歌詞も混じっていた気がする。酔っていてそこまで真面目に聴いていなかった。


これが本当だとしたら、ほぼ自殺行為ではないのか?良く言ったとしても出家か。自分で考えてよく分からなくなってきた。もうだめだ。