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太もも二の腕脂肪吸引日記

水の森美容外科での太もも臀部含む及び二の腕の脂肪吸引の記録、備忘録、日記、短編小説、などなど。

GreenBlood

飴細工と向き合ってもう何年経っただろうか。

マリの目の前には組み立てる前のパーツが並んでいる。完成すると城になる筈なのだが、気に入らない。ただ、何が気に入らないのか自分ではよくわからない。

いつも見てくれる和佐は沖縄へ出張中だった。辛口…酸っぱいコメントは聞けない。作り直すのは正直難しかった。予約のお客様に渡す時間をオーバーしてしまうからだ。


「………………あーーーーー」

その日の後味の悪さといったらない。

「もうやだ……………。」自分でいうのもなんだが、現実的には他の人から見たら普通に十分な出来だったのだ、いつも通りに作ったのだから。今ごろパーティーのパーツとしてキラキラ並んでいるはずだ。ただ辛い。自分が辛いだけ。

「こんな時にお酒が飲めたら良いのにって思うわ」

「そうだねえ…」酔っ払った様子で電話口の向こうの和佐が言う。「酔って楽しくなるとか出来ないもん」

代わりが飴なんだとは思う。自分にとっては。

「アタシが帰るまでに新しいものを作ってみてよ」

見透かしたように彼女が言った。

「例えばどんな?」「緑色」「は?」「緑をテーマに何か作って」「緑」「そう。」「なんで……」「青もいいかも」「……」いちおう、色素があるので出せない色ではない。が、しかし。


「もっと青とか緑とか緑とか緑とかをアタシにくれ」

「ん???」

「血が抜けて仕方ないのよ」

「…………おやすみ」


あちらで海を見て良い意味で毒されたらしい。よくわからないが。時々よくわからない事を言う。感覚的に生きているフシがあるが、そこも好きだ。

「みどりか〜〜〜、みどりね〜〜〜〜〜〜……」

ラフ画を描いてみる。木になってしまった。立体的になった時、映える造形を選んでしまいがちだ。鈴なりの葉っぱとかも作り甲斐があるだろう。

「……」

すごく眉間に皺を寄せていたのだろう、妹のナツが部屋の隅からゲームをやりながらこちらをまたか、という目で見ているのに気がついた。

「何よもー」「お姉ちゃん」ナツが寄ってきて描いたものを順に見て行く。「こーゆー事じゃない気がする」

「?」

「カズサさんが言ったそれ…その言葉って、こう、なんか、『緑のもの』を作れって事じゃない気がするんだよね」

「はあ」もっと青とか緑とか緑とか緑とか。「海?」「だから違くて」「……」


「わからん」


そもそも和佐の意図がナツの予想と合っているのかも分からないが、この2人は気があう部分があるので受け入れるべきなのかもしれない。

布団に横たわり大の字で天井を見上げる。はみ出た手と足先ににふれる畳がひんやり冷たい。

作ったことのないものを作るには、どうすればいいんだっけ?正確には、これまでの自分には想像しようもなかったもの、を。考えた末に辿り着くこともあるが、あまり関連性がなかったこともしばしばある。

ただ、今のやり方で9年もやって来た身で、真横に寄り道など出来るのだろうか?道が見つかる気がしない。

別に出来なくたって、普通に考えて作ったって、なんでも良いのだけれど。仕事じゃないし、罰されることもない。

ただ気に入らないのだ。

初めて妙な課題を出されて、それでも、あっと言わせてやりたい気持ちが底で巻いていた。


台所にお茶を飲みにいくと、ナツが一心不乱にパンをこねていた。ストレスが溜まるとああやっているので、学校かバイトで何かイヤなことでもあったのだろう。

「…………………………」

その姿を見て、自分も飴をさわりながら、作りながら考えることにした。台所も使えないので車で少し離れた職場に行く。スタッフそれぞれが鍵を持っている店なので、夜遅くても作っていられるのが良かった。

抽象的なものでも良いかもしれない。気分で色を混ぜ、パーツを作っていき、適当に組み立てるのも面白そうだと思った。実に初めての試みである。


和佐は半日仕事の間に空くので、水族館に行ってくると話していた。羨ましい。

手は円盤を作っていた。

先週は2人でグリーンカレーを食べた。

手はスプーンを作っていた。

先月は工場の夜景を見るバスツアーがあり一緒に行った。

手はパイプを何本か作っていた。

紫陽花を見に行った。

手は小さなボールを沢山作っていた。

猫カフェに。リボンを。神社に。鍵を。博物館に。天秤を。シフォンケーキに。卵を。動物園に。羽を。登山に。カンテラを。金魚を。帽子を。めがね。笛。ブーツ。どんぐり。かぼちゃ。ほうき。星に、ハートを幾つか。


「……あっ……疲れた」

ふと気づくと大分経っていた。テーブルの端まで一杯にパーツがひしめいている。

子供が大事にしていそうな、雑多なおもちゃ箱の中身のようだった。これをどうしよう?繋げようとは思っている。四角に並べて組み立てキューブ型にするのも良さそうだ。

けど。


「マーリー」

「えっ」振り向くと和佐が立っていた。「なんで!?」「先方の都合で急遽日程変更になったから、帰ってきた。日付変わる前に間に合って良かった」コロコロと言う。

「見られた…出来上がる前に見られた……」なんだかショックだ。「……これは」

「懐かしい感じがするかも」

「えっ」

「なんとなくね」伝わったのだろうかと思うと胸がぎゅっとなる気がする。「その予想は大体合ってる」ちょっと得意になってマリは答えた。和佐が椅子に腰掛けながらニヤニヤする。

「それで、どうするの」「…」和佐を見やった後、フライパンに手をかける。しばらく沈黙が流れ、ミルククラウンのかたちが出来上がった。

レースのような模様の大きめの台座を作り、最初に作ったパーツ達を上に並べていく。

最後に、ミルククラウンを載せた。

緑色の飴たちに、青が一筋走っている。

「……出来た」

「…うん」満足げに和佐が頷いた。

もっと青とか緑とか緑とか。

「足りないかな?」

「ううん、良いよ、充分」

「満足した?」和佐が言う。


満足したかはまだ実感が湧かないが、嬉しさはあった。

新しいものをどんどん作れる希望が芽生えている。血が騒ぐ気がした。


「ちょっとラフレシアみたいかな」

彼女は意地悪い顔をして一言足したのだった。