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太もも二の腕脂肪吸引日記

水の森美容外科での太もも臀部含む及び二の腕の脂肪吸引の記録、備忘録、日記、短編小説、などなど。

カギの行方

「おい」

社長の低い声が2人を制止した。

「イチャつくのは家でやれ」

「イチャついてんじゃありませーん」

デスクに座る真弓の頭の上に、顎を乗っけた静佳が答える。

「そーですよ嫉妬ですか社長」

「彼女に振られたんですか社長」煽りが続く。

「……」顔が般若に変わったので2人は大人しくパソコンの前に座り姿勢を直した。


6時半が過ぎ仕事を終了とする。

静佳が真弓に問う。

「飲んで帰るか、否か」「応」

疲れた顔で答え、2人はビルを出てすぐの店に入った。


「あたし生ビール」「カシスオレンジください」

枝豆、たこわさ、軟骨の唐揚げが並んでゆく。「今日はジャンキーに行こう」「いきなり締め頼んじゃう?」「猛者だ…」

木曜日なので疲れが溜まってきており2人ともなまぬるい目をしていた。

設計事務所に勤めており、図面を見ていてもパソコンを見ていても目を酷使し仕事終わりは目つきが悪い。しんどい。今現在、けむたいクライアントも抱えておりなおしんどい。

口を尖らせながら真弓が切り出した。

「えー、社長の話なんですが」

「何」

「酔った松永さんに聞いた話なんですが」松永さんとは事務所をこの春で定年退職したおじさんで、良い人なのだが酔うと口が滑りまくるのが悪癖だった。

「とは」

「12年付き合った彼女に振られたらしいよ」

「えっ」「あの齢で」「12年よ?」

「そして?」「彼女が奈良に移動になって、遠恋になって、好きな人があっちでできて、で、振られた」

「うわあああ!!」静佳が頭を抱えるフリをする。「アイタタタタァ」「でしょ」

「12年も付き合ったなら結婚しとけよ!馬鹿か!」「ばかじゃんね!?」「いくつよ!?」

「今年45じゃなかったっけ」「…わー…」

「そりゃ逃げられるよぉ……おーいおいおいおい」

疲労から来る妙なテンションの高さも手伝い、ののしりまくるふたり。かたやカシスオレンジでベロベロに酔っ払っているのだが。

その後もくだを巻き巻き、ラストオーダーと言われたのでしぶしぶ家路についた。


「あ」静佳が呆然として言う。

「どしたの」「鍵落とした」「えあー!?」

2人一緒に暮らしているので、中に入れるのは入れるのだ。

しかし心当たりがあった。

「…お会計して店出たじゃん、」「うん」「そのときに財布しまったじゃん」「その時?」「そのときに落としたような気がする」「……探すの?」「うー」

「鍵作り直しても良いけど」「うー」

酔っ払いが涙目になっており判断が進まない。

酔いが覚めてきていた真弓はやれやれという顔で手をひいてきびすを返した。歩いて15分なので、まあまあ心が折れない距離ではない。


……さっきまでいたお店に近づいたとき、真弓が二軒隣のカフェから出てきた社長と、女性に気がついた。

「おー…」

「どうしたの?」「ほら」死角に入るように少しずつ道端の方に足をずらしていくふたり。

見たところ彼と同世代の女性っぽかった。ブラウン系でまとめたメイクに目尻の少し寄った笑いじわ、シルバーの控えめなアクセサリーと白いニットと落ち着いたオレンジ色のフレアスカート、高くないヒール。

「どう思う」

「はい先生」「なんだね」「二人の距離からして付き合う前のようです」「年齢を考慮しても同じ事が言えるのか」「勘です」

「…こんどはうまく行くといいねえ……」

ふたりで拝むポーズをとっていたら、社長に気づかれた。

いぶかしげもいぶかしげにこちらを見ている。

彼女のほうは首を傾げており、ひとまずふたりは退散することにした。


「うまく行くのだろうか」

「仕事では高慢ちきだからね」「高慢ちきって久々に聞いたわ……」


その後、お調子者の女子カップルがこじらせ男子の婚活を応援するという構図が出来上がることとなる。


あと、鍵は作り替えることになった。